【読書レビュー】「がんになった緩和ケア医が語る「残り2年」の生き方、考え方」生と死について考える

読書:小説&エッセイ

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久々に更新。その1冊目がこの本。
Youtubeでたまたま、著者 関本剛さんのお別れの挨拶の動画を拝見した。
そして本書の存在を知り、手に取った。

本書では自身もステージ4の肺がんとなった緩和ケア医の関本さんが、医師と患者の両方の立場から、がんという病気に向き合い、記録を残している。

本書の目次

1章 宣告
2章 医師の道へ
3章 死について思うこと
4章 生きてきたように
5章 最高の人生に向かって
・医師を目指す高校生に向けたメッセージ

要約

印象的な言葉、内容をピックアップ。

▶︎「お父さんが死ぬまでの間に、もう1度みんなで温泉に行きたいね」
私は苦笑して返した。
「もう1度ってなんやねん。もうちょっと行けるわ!」

私のなかで、少しだけ気持ちが軽くなった。
9歳の長女はわずか1ヶ月で父親の死が近いかもしれないことを咀嚼し、「皆で思い出を作ろう。楽しいことをしよう」という思いにまで到達している。

*親ががんになると、幼い子どもには事実は知らされなかったり、子どものことを思って余命がわずかなことを隠すこともあるそう。しかし子供のためにも、むしろ事実を話した方がいいのだと知った。

▶がんに罹患すると、人は痛みなどによる「身体的苦痛」だけではなく、「全人的苦痛」にも苛まれるという。

「全人的苦痛」とは大きく4つのカテゴリーに分かれている。「身体的苦痛」のほかに、抑うつなどの「精神的苦痛」、金銭的問題や家族関係の問題などの「社会的苦痛」、最後に「なぜ自分が」「こんな状況で生きている意味があるのか」など、生きる意味や価値を見失うことによる苦痛と言われる「スピリチュアペイン」だ。

*ただやみくもにがんを怖がるのではなく、実際にがんになるとどのような影響があるのか、まずは理解することが大切だと実感。

「人間の最期」を考えさせられた祖父の死
私が六甲中学に入学する少し前、小学校5年生のとき、私自身の人生観に少なからぬ影響を与えるひとつの体験があった。…祖父の死である。

「剛、お別れだから、おじいちゃんに触ってあげなさい」
しかしそのとき、私は恐怖心で体に触れることができなかった。

点滴を続けた祖父の体や手足はむくみで不自然に腫れあがり、人工呼吸器によって維持されている「シュー・コー」という呼吸音だけが響く病室の中で、祖父の体が「怖い物体」にしか見えなかったのである。

…母も…「万が一の場合はどうしたらいいか、父にあらかじめ聞いておけばよかった」と語っており、個人の意に反した最期となってしまったことを。ひとつの教訓としている。

医療の目的は、生存期間を1秒でも長くすることではない―――このとき考えさせられたことは。のちに緩和ケア医を志すことになる私の「原点」となった。

*私も老衰で祖母が亡くなる前、入院している祖母を訪ねたことがある。点滴をしてチューブで繋がれ、手足が腫れあがっている祖母を見て驚きと悲しさを隠せなかった。

いつも優しかった祖母がだんだんと老いていき、気力をなくしていくのをみるのも少し切なかった。
もう8年近く前になるけれど、チューブで繋がれすっかり弱ってしまった祖母の姿を思い出すと、未だに悲しくもあり、また祖母に会いたいという思いに駆られる。

▶「看取り」の言葉2
「良き死は、逝く者からの最後の贈りものとなる」(アルフォンス・デーケン)
死による別れは悲しく、つらいものであるが、残された者は、その別れによって新たな価値観を手に入れ、成長することができるという。

*なんだか心に残る言葉だった。「良き死」とは何だろうか。

〈人は、生きてきたように死んでいく〉
人間の長い人生は、最期の「生きざま」にも反映される―――。
愛と感謝に満ちた人生を送った人は、最期に感謝の言葉で人生を締めくくり、不平と不満だらけの人生を送った人は、最期まで「文句たれ」で終わる―――看取りを重ねると、そういった傾向を感じることが多い。

ただし、それは人間が変わることのできない存在だという意味ではない。むしろ、周囲が驚くような変化が起こりうることを示唆している。

*この言葉は聞いたことがあり、自分の中に印象深く残った言葉である。
以前読んだホスピスの小説「ライオンのおやつ」でも共通する言葉が載っていた。
人生の最期まで変われる可能性がある、それはとても救いのある言葉だと思う。

▶意識レベルの低下時における「悪夢」の構造
人は死ぬ直前、必ずしも痛みや辛さで苦しみ抜くというわけではない…
患者さんの多くは、こうしたメカニズムにより穏やかな最期を迎えられることが多い…

しかし意識のレベルが落ち、現実を認識できるギリギリのレベルになってくると、悪夢にうなされているように見える患者さんが一定数いる。…

こうしたネガティブな幻覚が生じるときの条件として、患者さん本人が何らかのストレスを抱えていることが多いと私は感じている。

たとえば尿意があるのに排尿できないとか、痛みがある、…など患者さんが不快な思いをしている場合、それが「悪い夢」につながることが多いのである。

*なるほど。関本さんの見解では、「悪夢」を見るのも理由があるという。将来的に、親や兄弟、夫、はたまた自分自身がそういう状態になる可能性も0ではない。いや、大いにあり得る。こういうメカニズムを知っておくのは、とても有益だと思う。

▶「最高の人生の見つけ方」に学ぶ生き方
最高の人生が何であるかは、人それぞれ違う。私が最期にやりたいと思うことは、もしかすると自分にとって、かなりしんどい仕事になるかもしれない。

これまで、無理して引き受けた仕事や、迷った末に「やる」と決めた仕事は、不思議と私に必ず何かしらの財産を残してくれた…

*私は今、コンフォートゾーンにいないだろうか?落ち着いた場所の方がもちろん安心するけれど。この章を読んでちょっと背伸びをしても、チャレンジングなことをしたら成長できるかも、と改めて思う。

▶「医師を目指す高校生に向けたメッセージ」
の中の動画の紹介から抜粋

決めなくてもいいから、いっぱい話をしよう。
どこで死にたいか、病気になった時どうしたいか。
そんな話ばっかりしなくてもいい。
何が好きか、何を大切にしているか。
決めなくてもいいから、いっぱい話をしよう。

まとめ

*大好きだった祖母・祖父のことを思い出したり、私も普段から「死」について考えることは多い方だと思う。がんの不安を乗り越えて、「死ぬまで生きる。それだけだ」という関本さんの言葉。
人の一生は有限であり、だからこそ慈しむことが出来ると、私自身もいつか死ぬことを理解して受け入れられるつもりでいるが、果たして実際に、本当に自身に死が迫ったら、冷静でいられるだろうか。

本書ではキューブラ―・ロスの「死の受容」プロセスに触れられるが、そして関本さん自身もがんに罹患し、とても「教科書通り」のプロセス進行があり得ないことが分かった、とある。
「死」について理解することが、死ぬことの恐怖を少しでも和らげる道となると思う。

またYoutubeに投稿されている、関本さんの「お別れの挨拶」動画は、葬儀やお通やで流されるのを想定して録画されたのだろうけど、ユーモアに溢れている。そして動画の最後、両手を目いっぱい振りながら「また会いましょうね」の言葉が、忘れられない。

がんや「死」についてやみくもに恐れるのではなく、その実態を少しでも知って理解したいという人には、ぜひ読んでもらいたい一冊。

読書レビュー:2023/4/15


書籍紹介

著者: 関本 剛(せきもと ごう)
1976年兵庫県神戸市生まれ。在宅ホスピス「関本クリニック」院長。緩和ケア医として1000人以上の「看取り」を経験する。
2019年、ステージ4の肺がんと診断され、2022年4月19日、45歳で亡くなる。

発行:株式会社宝島社
発行日:2020年9月2日

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