教祖さまの孫である彩乃ちゃんを中心に、
第一~三話でそれぞれの「中継地点」に立つ人々が登場する。
彩乃ちゃんは一見ごく普通の小学五年生だが、 不思議な力で、関わる人々を幸せにしていく。
花屋に勤める20代の智佳子、
進路に悩む高校三年生の徹平、
そして東京から地方に越してきた小学五年生の佳奈。
人生の岐路に立つ人たちの背中をそっと押して、 前に進む力を与えてくれる。
読み終わったらほっこりと幸せな気持ちになれる本。
本書のもくじ
第一話 夜散歩
第二話 石階段
第三話 夏花火
解説 河原千恵子
要約:ネタバレあり
印象的な場面&言葉をピックアップ。
▶︎ようやく手に入れた自由は、存外小さなものだった。
ぴかりと光る道が見えればいいのにな。 迷わず、その道に飛び込むのに。
(新卒で入った会社を辞めて、今は花屋のバイトで落ち着いている智佳子の言葉)
*この言葉にはめちゃめちゃ共感した。
私も定職にはついているものの、このままでいいのか? と常に自問自答している。
神様かが誰かが自分に向いている道に先導してくれたらいいのに、と思わないでもない。
▶︎ペダルを力一杯にこいだ。勢いを得た自転車は、ぐんぐんと進んでいく。
夏の空気が、夕暮れの匂いが、顔に押し寄せてくる。
…心の中で叫んだ。思いっきり叫んだ。 田舎町の空に、すべての思いをぶちまけた。
(思いを寄せていた澤口さんが、クラスの伊藤と一緒に仲良くコンビニで並んでいる姿をみて、
自転車の立ちこぎで田舎道を駆ける徹平)
*切ない。徹平の切なさが文字を超えて飛び込んでくる感じがして、私までなんだか切なくなった。
でも青春時代の甘酸っぱい感じ、切ないけどいいな。
▶︎「安心していいよ」
「本当に?」
「大丈夫」
彩乃ちゃんの目は、美しく光っていた。
(大雨で山頂の古い祠や仏様が流されてしまわないか心配し、 増水した山道を登ろうとする徹平を、彩乃ちゃんが引き留める場面)
*神々しい彩乃ちゃんの姿が目に浮かんできた。
日本に八百万の神がいるように、小さな黄色い傘をさして立っている彩乃ちゃんも、もはや神の一種のように感じる。
▶︎日々は過ぎていく。いろんなことが移り変わっていく。
…この夏さえも色褪せるかもしれない。 たぶん、それでいいんだと思う。
(小学五年生の佳奈が、彩乃とひと夏を過ごし、新しい学校や家庭内で、 心穏やかに過ごせるようになる。第3章、最後の場面。)
*日々は移り変わって、同じように見えても、常に変化している。
変わることは自然なことだから受け入れて、それと同時に、今しかないこの時を大切にしたいと思う。
まとめ
3章に分かれおり、各章も短いので、どれか一つだけも気軽に楽しめる。
ただそれぞれの章で微妙につながっているので、順番に読むのがオススメ。
各章のキーアイテムは、「マニュキア」「貝殻のネックレス」「ビーズの指輪」。
少し宗教やスピリチュアルな話がからむので、抵抗がある人もいるかも知れないが、最後に河原千恵子さんの解説にあるように、
町中にひっそりと祠があって 人々が手を合わせて行くように、「信仰心というのは人間の遺伝子に勝手に組み込まれている」のだと思う。
「私たちはみな、奇跡を受け入れる心の素地を持っているのだ」
読み終わった後は、きっと心が温かい気持ちになる本。
2023/2/1
書籍紹介
著者:橋本 紡(はしもと つむぐ)
三重県生まれ。1997年、第四回電撃小説大賞金賞を受賞し、デビュー。
「リバーズ・エンド」「半分の月がのぼる空」シリーズなどで人気を博す。
著作に「流れ星が消えないうちに」など。
発行:講談社
発行日:2011年3月15日