「i アイ」がどんな内容か、お探しですか?
ここでは、ハーフ(と思われたこと)で葛藤したことがある私が
主人公に共感しながら読んだ感想や、あらすじ・要約を載せています。
目次で気になったところから、読んでみてください!
※後半の「要約」からはネタバレを含みます※
あらすじ (ネタバレなし)
イラン生まれのアイは、アメリカ人の父と日本人の母の養子として、ニューヨーク・日本で育つ。
容姿端麗で何不自由なく、愛情深く育てられ、周りからも羨ましがられる。
しかし自分の代わりに両親の元に貰われていたかもしれない誰か。
その誰かの幸せを不当に奪ってしまったような気がして、常に申し訳ないと感じている。
そしていつしか、世界中で起こる悲惨な災害や事故で亡くなった人々の数を、ノートに記すようになる。
悲惨なニュースを目にする度に、「生き残ってしまった」「なぜ私でなかったのか」と葛藤し苦しむアイ。
やがて日本国内だけでなく世界的にも大きく知れ渡ることになったあの大災害を境に、
アイの身体と心に変化が起き始める…。
いつも味方でいる家族や友人に愛情を注がれ、心身ともにだんだんと変化していくアイの姿。
心温まるものがたりです。
要約:以下ネタバレあり(!)
印象的な場面、言葉をいくつかピックアップしていきます。
▶「ガールズトークの時間でしょ?…」
アイはそのときふと見せたミナの表情を見逃さなかった。
ミナは少し、本当に少しだけ悲しそうな顔をした(ように見えた)。
*完璧な容姿で、明るく堂々としている親友ミナが見せた、弱気な姿。
なぜだかこの部分が印象的でした。
完璧そうな人の弱い点や苦手なところを知ると、人は親近感を覚えるのかも知れないです。
▶命が脅かされることのないこの夜は、紛れもなく奇跡だ。
*明日の仕事に憂鬱する程度の平和ボケした日本。
私も、明日も当然のように朝が来て、同じような毎日が繰り返されると思っています。
でもアイの「祖国」であるシリアでは内戦が起こり、万を超える死者が出ている。
改めてこの平凡な毎日が、奇跡であることを実感しました。
▶ミナからアイへのとても長いメール
日本で流産してしまったアイ。
一方アメリカにいるミナは中絶しようしている。
すれ違ってしまった二人だが、1週間後に長い長いメールがミナからアイの元へ届く。
- いつも強く見えたミナが、LGBTQのマイノリティと気づき少しづつ鎧をつけていったこと
- アイとの出会いも、何気なく声をかけたように装い、実はとてつもなく勇気をもって、タイミングを見計って声をかけたこと
- アイへの思い…
メールには、アイへの愛情がたくさん語られていた。
*ミナからの長いメールを読んで、私も目頭が熱くなりました。
カフェで読んでいたので、涙はこらえました。
周りから見た人の印象は明るくて溌剌としていても、その人が内面でどう感じて何を思っているかは分からない。
そしてこの物語に出てくる人は皆、愛で溢れています。
▶︎「愛があるかどうか」
写真家であるユウに、シリアの内戦の写真を撮らないのかと尋ねるアイ。
「撮りたい、と思って撮ってはいけないものだと思う…
アイには撮る権利があると思う」とユウ。
どこまでが使命としての報道か、自分のためか、という点で二人は口論になる。
そして一晩眠らずに考えたユウの出した答えが「愛があるかどうか」。
*このものがたり全体のテーマが「愛」なんだと思いました。
世界が愛で溢れたら、悲惨な戦争なども起きないのだろうか。
人間は生まれた瞬間から、死ぬ瞬間に毎日、刻一刻と近づいている。
人が生きている以上、争いは避けられないのかも知れない、とも思います。
▶︎「この世界にアイは存在しません。」
という数学教師の言葉からものがたりは始まり、
アイは常に自分の存在を否定されていると感じる。
しかし終盤で「この世界にアイは、存在する。」と自分自身を肯定する強さを得る。
「私はここよ。」
ものがたりの最後、海岸で待つミナに、海の中から帰ってきたアイの一言。
*最後の場面で、スーっと鳥肌が立つというか、
やっとやっと、自分を受け入れられるようになったんだねアイ、と
温かい感情で包まれました。
▶︎ブルー基調のカラフルな表紙
表紙には大きく「i アイ」と書かれ、青を基調に色鮮やかな円が書かれています。
読み始める前は、「めちゃめちゃカラフルな表紙だな」くらいに思っていました。
しかし読了後、改めて表紙を眺めると、
親友ミナの好きなサーフィン、海、渦巻、アイの葛藤する心など、
様々な感情を表しているのかなと思いました。
ちなみに装画も、著者である西加奈子さんが行っています。
まとめ&感想
物語の主人公のアイは1988年シリア生まれ。
阪神淡路大震災、ニューヨークの同時多発テロ、東日本大震災など、実際に世界で起きた事件や災害が語られるので
物語だけれど、フィクションとノンフィクションの間を行き来しているような、不思議な感覚に。
そして同時に、アイになんだか親近感を覚えました。
奇しくもアイと同じ時期に生まれた私は、アイとほぼ同じ年代で
それぞれの事件をニュースで見聞きしているのでなおさらかも知れないです。
また私は純日本人ですが、わりと濃いめの顔立ちをしています。
小さい頃は特に「ハーフ?」「両親はどこの出身?」など聞かれることもしょっちゅう。
アイほどではないですが、「わたしは本当に日本人なの?」と
自分のアイデンティティがよく分からないと悩むこともありました。
その点も、アイに親近感を感じた要因かも知れないです。
***
長編にも関わらず、先が気になって手が止まらない、
読了後にはきっと温かい気持ちになれる一冊です。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
引きこもりの青年が、人の優しさを知り外の世界に出るものがたり。
原田マハさんの「生きるぼくら」もおススメです。
【生きるぼくら】で20代がよみがえる〈ネタバレ有り&無し〉読めばきっと元気に。 – かわべりーcafe (kawa-berry.com)
書籍紹介
著者:西加奈子
1977年テヘラン生まれ、カイロ・大阪育ち。
2004年『あおい』でデビュー。
著書に2015年に直木三十五賞した『サラバ!』など。
発行:株式会社ポプラ社
発行日:2016年11月29日
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