こちらも友人おススメの一冊。2021年本屋大賞ノミネートだそう。
気軽な気持ちで読み始めたが、予想以上に良かった。
読みやすいけれど、自分がまさに感じている、仕事や、人生についての迷いにそっと寄り添ってくれる本。
本書の目次
一章:朋香 二十一歳 婦人服販売員
二章:諒 三十五歳 家具メーカー経理部
三章:夏美 四十歳 元雑誌編集者
四章:浩弥 三十歳 ニート
五章:正雄 六十五歳 定年退職
要約(ネタバレあり)
印象的な言葉をピックアップ。
▶︎地上と地下、両方がメイン?そう気づいたら、パラレルキャリアの記事を思い出した。
…植物が、地上と地下の世界それぞれの持ち場で役割を果たし、互いに補完しあうように?
by 二章:諒 三十五歳 家具メーカー経理部
*諒が「奇妙な地中の世界」を読んで、自分にも会社員とアンティークの雑貨屋の両立が出来るかもしれないと、思い始めるシーン。
植物のシーンを読んでその発想が出来るのは、いささか飛躍しているような気もするが、その発想にいたれるのがすごいなと思った。
▶︎「ああ、崎谷さんもメリーゴーランドに乗ってるとこか」
「メリーゴーランド?」
…「独身の人が結婚してる人をいいなあって思って、結婚してる人が子どもいる人をいいなあって思って。そして子どものいる人が、独身の人をいいなあって思うの。ぐるぐる回るメリーゴーランド。おもしろいわよね」
by 三章:夏美 四十歳 元雑誌編集者
*聞いたことがあるようで、今まで聞いたことのなかった話。
隣の芝生は青い。みんな無いものねだりなんだな。
▶︎ーーー私たちは大きなことから小さなことまで
「どんなに努力しても、思いどおりにはできないこと」
に囲まれて生きています。
by 三章:夏美 四十歳 元雑誌編集者
*私も少し前に、仕事で計画通りに進まなかったり、予想外の事態になって心が落ち着かなかったり、もやもやしていたことがあった。
でもそれは、私が「思い通り」にしたかったから。
思い通りにいかなくてと当然、という気持ちでいれば、もう少し気持ちがラクになりそう。
▶︎俺は出来損ないじゃなくて、自分を活かせる場を間違えていただけだったのかもしれない。
…就職活動って、これまで企業や店しか思い浮かばなかった。直ぐ身近に、俺の知らなかったいろんな仕事がある。もっと調べてみたら、自分にぴったりの場が見つかるかもしれない。
by 四章:浩弥 三十歳 ニート
*デザインの仕事に付けず、毎日昼近くに起きる生活を続ける浩弥が、コミュニティハウスで働き始める。同世代なだけに親近感を覚え、私も定職こそあるが、もっと広い世界を見たいという気持ちにさせてくれた。
▶︎「私はね、人と人がかかわるのならそれはすべて社会だと思うんです。
接点を持つことによっておこる何かが、過去でも未来でも」
by 五章:正雄 六十五歳 定年退職
*社会って、働いて関わるだけじゃないんだな。社会との関係が切れないようにと、今の会社にずっとしがみついている必要もないかも知れない、と思わせてくれた。
▶︎「作る人がいるだけじゃ、だめなのよ。…一冊の本が出来上がるところから読者のもとに行くまでの間に、いったいどれだけ多くの人が関わってると思う?私もその流れの一部なんだって、そこには誇りを持ってる」
by 五章:正雄 六十五歳 定年退職
*書店で働く正雄の娘、千恵の言葉。
組織の末端で、しがないOLをしている、なんて思ってしまう自分が恥ずかしい。
私も自分の仕事に誇りをもって働きたい。
▶︎「小学校のときさ、親子カニ競争やったじゃない?…横歩きってワイドビューになるでしょ。
私、大人になってから、お父さんのあの言葉を時々思い出すんだよね。
前ばっかり見てると、視野が狭くなるの。だから、行きづまって悩んだときにふっと、見方を広く変えてみよう、肩の力を抜いてカニ歩きしてみようって思うの」
by 五章:正雄 六十五歳 定年退職
*こちらも千恵の言葉。仕事人間であっただろう正雄の娘としては、お父さんっ子すぎない?
話が出来すぎてないか??なんて思ってしまうけど、同時にこの「カニ歩きでワイドビューに」という言葉がなんだかとても印象的だった。
さっそく今晩は家で、カニ歩きしてみようと思う。
▶︎まあまあ まあまあ まさおがいくよ
さあさあ さあさあ まさおがいくよ
おおっと よこには よりこがいるよ
by 五章:正雄 六十五歳 定年退職
*最後に正雄がつくった替え歌。良い味でている。
まとめ
仕事に、人生に迷った主人公たちが、司書の小町さゆりさんに紹介される本を通じて、次第に前を向けたり、今までと世界の見方が変わったり、ぱぁっと人生が開けたりするのがとても心地よい。
どの章も面白いし、涙を誘われたが、特に最後の章、定年退職した正雄の話が印象的だった。
それぞれ短編集のようでいて、微妙に人物が絡み合っている。
読み終わったら、なんだか仕事、人生に対して、前向きになれた気がする。
気になった章だけ読んでももちろん良いが、
全ての章を読めば、また更に深く楽しめると思う。
読書レビュー:2023/5/19
書籍紹介
著者:青山美智子 (あおやま・みちこ)
1970年生まれ、愛知県出身。横浜市在住。大学卒業後、シドニーの日経新聞社で記者として勤務。
その後上京、出版社で雑誌編集者を経て執筆活動に入る。デビュー作『木曜日にはココアを』が第1回宮崎本大賞を受賞。著書他。
発行:株式会社ポプラ社
発行日:2020年11月9日