実は私、この作品がシリーズ物だと知りませんでした。
読みはじめたきっかけは、文庫分ランキング上位にランクインしていたから。
(人気・面白い!と聞くと読みたくなってしまう、ミーハーな私です。)
しかし読了後に、本書は宮部みゆきさんファンによくよく知られている「三島屋変調百物語」の第7巻ということが分かりました。
ホラー時代小説(江戸怪談)のシリーズだそうです。
私がなんの違和感なく7巻から読み始められたように、一話ごとに話が完結しているので、途中から読んでもOKです。
(でも本当を言うと、第1巻である「おそろし 三島屋変調百物語事始」から読み始めた方が、更に楽しめるとは思います。)
ここでは本書のあらすじや、何の前情報もなく読んだ感想を、【前半ネタバレ無し・後半ネタバレ有り】で紹介します。
本書の目次
序
第一話 火焔太鼓
第二話 一途の念
第三話 魂手形
要約 (前半:ネタバレなし、後半:あり)
序
本書の舞台は江戸時代、神田三島町にある袋物屋の三島屋。
三島屋は風変わりな百物語を行なっています。
語り手も聞き手も一人ずつ。そしてその話は決して外には漏らさない。
「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」と言うもの。
以前は主人・伊兵衛の姪、おちかが聞き手を務めていました。
おちかが貸本屋へ嫁いでからは、次男坊の富次郎が引き継いでいます。
と、「序」ではそんな前置きが2ページでさっくりと纏められています。
今までシリーズを読んでいない私でも、スムーズに読み始められました。
内容を知らずに読み始めたので、めちゃめちゃ怖いのかな…??と恐る恐る読み始めましたが、そこまで怖くはなかったです。
ゾゾっとする場面はいくつかありましたが。。。
第一話 火焔太鼓
私が一番印象的だったのは、第一話 火焔太鼓です。
話し手は、富次郎が「美丈夫とはこういうお方のことよ。」と語るように若々しく清々しいお侍。
その美丈夫殿こと中村 新之助の幼少期、国許での不思議な「火消し」の話です。
兄・柳之介や 嫂・よしが登場します。
兄の柳之介は、これまた美丈夫殿以上の美少年であり、勇猛果敢な槍使いでした。
父が早生したので、柳之介が十五で元服するとすぐに家督と役務を継ぎ、殿の近習として仕えます。
話し手である美丈夫殿も男前ながら、その話に出てくる兄の柳之介も更に男前だったようで、家中の娘たちの憧れの的。よしがお嫁に迎えられた時は、大いに驚き、騒がれたそう。
文章でありながら、読んでいてその騒ぎが目に見えるようです。
私も富次郎と一緒に、美丈夫殿や柳之介に対してときめきながら読んでいました。
しかし途中からの話の展開に、私もときめいているどころではなくなりました…。
『美しい結びである。
向き合って耳を傾けているだけの富次郎の胸にも爽やかな気が通ってくるようだ。
しかし、話はまだ、ここでおつもりではなさそうなのだった。
いったん結ばれた美丈夫殿の口元に、小さな強張りが見える。
おまけに。
ーーーさっきから、お顔がだんだん暗くなってゆくようだけど。』
話の途中では、新之助の兄・柳之介が大火事での怪我から足が動かなくなります。
そんな障がいがありながらも夫婦で共に仲良く暮らしめでたし・めでたし、で終わると思いきや…
最後の方で、またがらりと話の展開が変わります。
夫婦である柳之介とよしが迎える運命が、とても辛いです。
武士の悲しすぎるほどの自己犠牲。
柳之介も生きてはいるのですが、もう よしたちが会うことは叶わない。
これってある種の生贄みたいなものだなぁ…と読みながら思いました。
いっそ戦で亡くなってしまった方が、まだ気持ちの整理がつくかも知れないような。
この「火焔太鼓」の新之助や、柳之介・よし夫婦に何故だかとても感情移入しました。
帰宅時に読んでいたのですが、まさか電車内で泣きながら読むことになるとは。
読後しばらくはやるせなさというか後味が悪いというか…何とも言えない感情が残りました。
***
本書は各ページに挿絵が入っており、この『火焔太鼓』も然り。そして話が始まる1ページ目には、イラストで丸々1ページが使われています。
森の中に池があり、その水面に浮かぶ人のような黒い影と、その池のほとりに立つ小さなお地蔵様。
読み始める前は、「どんな場面だろう? 可愛らしいお地蔵様だな」くらいに思っていたのですが、読了後に改めてイラストを見ると「あぁ、なるほど…」と、とても悲しくなってきます。
第二話 一途の念
第二話の話し手は富次郎がひいきにしている、屋台の串団子売りのおみよという娘さん。
料理屋の松富士で中居をしていたおみよのお母さんと、同じく松富士で料理人をしていたお父さんの話です。
ページ数は第一話 火焔太鼓の半分ほど。また第一話のインパクトが強すぎたので、さらっと読めてしまった、というのが正直な感想です。
もしくはおみよの母、お夏の運命が辛すぎて、あまり直視出来なかったかも知れません。。
富次郎が団子を買いに行くと、いつも愛想が良く笑顔の良いおみよですが、自分や家族のことはほとんど話しません。
しかしある日おみよの口から出た言葉に富次郎は驚きます。
「やっと死んでくれたぁ、おっかさん!」
笑顔の裏で辛い経験をしてきたおみよ。
この言葉がきっかけとなり、おみよの語り捨てが始まります。
苦労人だったおみよの両親、伊佐治とお夏。特に美しく生まれながら運命に翻弄される、お夏の人生が悲しいです。
第二話のタイトルである「一途の念」とは、おみよの母、お夏の念です。
お夏は立て続けに3人の男の子を産みますが、お夏の一途の念により……。
***
最終的に、ともに亡くなってしまったおみよの両親。
二人仲良く天国にいることを願うばかりです。
そして読了後は何だか無性に、おみよの売る醤油と砂糖醤油のお団子を食べたくなりました。
(代わりに近所のスーパーへ行き、みたらし団子を食べました。)
第三話 魂手形
第三話は、本書のタイトルにもなっている「魂手形」です。
この回の話し手は、白地に藍染の浴衣をすかっと着こなす、鯔背な老人。
吉富と言う七十歳の老人。55年前、彼が十五歳だった頃の話です。
※鯔背(いなせ)とは…威勢がよく、さっぱりしていて粋 (いき) な気風。 勇み肌。
吉富老人の実家は〈かめ屋〉と言う木賃宿をしており、そこにお化けがお客として泊まったことが、話の始まりです。
話の中で出てくる吉富少年の母親お竹。
父親の伴吉の後添いなので吉富と血は繋がっていないですが、吉富へも沢山の愛を注ぎ、その名の通り竹を割ったようにすかっとした性格は読んでいても気持ちがいいです。
ただしこのお竹さん、女にしておくのが勿体ないような力持ちで大女。そして無愛想で言葉は悪いです。(この言葉が悪いと言うのが、この話の最後の方でのキーポイントになるのですが…)
そして吉富の営む木賃宿〈かめ屋〉に成仏出来ずにいるお化けが宿泊するのですが、吉富がお化けの代わり復讐をして、無事に成仏させます。
***
そして第三話は、他2作と違いハッピーエンドで終わると思いきや…
聞き手である富次郎の元に現れた男の不穏な言葉。
「百物語なんてしていると、この世の業を集めますよ」
富次郎や周りの人々の身にも何か起きるのか…と続編が気になる終わり方でした。。
文量が多く、本書の約半分を占める「魂手形」。
しかしテンポが良く続きが気になってぐいぐい読めるので、あっという間に読めてしまいました。
まとめ&感想
さすがの宮部みゆきさん。
読み応えはありますが全体的にテンポが良いので、長さも気にならずすぐに読めてしまいました。
読めない漢字や、時代ものの言葉で意味が分からないものも多々ありましたが、そのあたりは調べつつ読んだので、語彙力も少し増えたような。
そして話の各所に出てくる、聞き手の富次郎や、初代聞き手をしていた おちかのエピソード。
二人にもそれぞれ二代目聞き手となった事情や、辛く悲しいエピソードがあるようなので、これはやはり第1巻から読んだ方が、よりこの物語全体を楽しめるなと思いながら、本書を読み終えました。
書籍紹介
タイトル:魂手形 三島屋変調 百物語 七之続
著者:宮部みゆき (みやべ みゆき)
1960年東京生まれ。87年「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞し、デビュー。
著書に『龍は眠る』『火車』『BRAVE SROTY』など。
価格:1,600円(税別)
ページ数:293ページ
発行:株式会社KADOKAWA
発行日:2021年3月26日
三島屋変調百物語 シリーズ
私は今回は単行本で読みましたが、文庫本でもシリーズ発行されています。
第8巻以降は、現在は単行本のみ発行されています。(2023年7月現在)
そして最新刊の第9巻も、ついに発売されました!(2023年7月28日発売)